「神様からの贈り物」
ハナを切り、鞍上の武豊の絶妙なペース配分に導かれ、颯爽と走るキタサンブラック。
4コーナーを回り最後の直線、「どこで追い出すか」、
早過ぎれば、差し馬に捉まる可能性が・・・
昨年、鼻差差された記憶が脳裏をよぎる。
遅くなれば、馬群に飲み込まれる可能性が・・・
ゴール前300m地点で、鞭が入った。
スパートするキタサンブラック、
外から差し馬も一斉に襲い掛かる。
しかし、やはり、強かった。
差し馬に影を踏ますことなく、逃げ切った。
引退レースにふさわしい、有終の美を飾る「見事なレース」だった。
馬主であるサブちゃんとキタサンブラックの出会い。
数年前、サブちゃんが北海道に馬の買付に行き、帰りかけたところ、
愛くるしい目で自分を見つめる馬がいた。
サブちゃんは、その目に惹かれその馬を買った。
それがキタサンブラックだった。
その馬は、素直で、まじめでレースになると一生懸命に走る。
そして、何より体が丈夫だったため、厳しい鍛錬に耐え、だんだんと強くなっていき、
半世紀近くの間、G1レースに勝てなかったサブちゃんに7度もその栄冠をプレゼントした。
そんなキタサンブラックのことを、サブちゃんは「神様からの贈り物」だと、
感謝した。
私は、キタサンブラックを通して、サブちゃんを好きになった。
そのレースもキタサンブラックが勝った。
表彰式が終わり、関係者が退場となるところで、
大勢のファンは「サブちゃんのまつり」が聴けることを楽しみにしていた。
そのとき、サブちゃんは歌う予定はなかったのだが、
その熱い空気を察したサブちゃんは、
「今日は私の代わりに武さんに歌ってもらいます」ときた。
そのあと「まーつりだ、まーつりだ、キタサン祭り、これが競馬の祭りだよ!」
とやってくれた。
これには、最後まで残っていたファンは大喜び、拍手喝采だった。
このとき私は「ファンを大切にする温かみのある人なんだなあ!」と
サブちゃんのことが好きになった。
昨年の有馬記念では、惜しくもハナ差で負けたが、
その時も全レースが終わった後、残ってくれていたファンのために、
「まつり」を歌ってくれたと聞いている。
サブちゃん、北海道から歌手を目指して上京し売れるまで苦労された。
一生懸命に走っている馬の姿を見ると、
歌手を目指して一途に走っていた時の自分の姿を思い出すという。
そして、馬主になってからも、半世紀近くG1レースには勝てなかったが、
「いつかは!」と夢見て、辛抱強く続けられてきた。
そんなサブちゃんに、競馬の神様が微笑んでくれたのだ。
そして「キタサンブラック」という馬を贈ってくれたのだ。
昨日の有馬記念では、キタサンブラックの走る姿、愛馬を熱く応援してくれるファンの姿に、サブちゃんは感謝の気持ちで一杯になり、3コーナーを回ったあたりから、涙がポロポロ出て止まらなくなったとのこと。
レース後のインタビューでは、
「今までの人生でこんなに感動したことはない!」とおっしゃられていた。
多くの競馬ファンも、昨日だけは、馬券が当たったかどうか、
そんなことよりも「キタサンブラックの勝利を心から喜んだのではないか!」
そんな気がした。
「キタサンブラック」
「お疲れさまでした!」
「ありがとう!」
今後は、生まれ故郷の北海道に帰り、
自分と同じような、素直で丈夫な強い子を作ってください。
そして数年後、その子供がG1レースで勝利し、
そのとき、再びサブちゃんの「まつり」が競馬場に響くことを期待しています。